映像から、生態へ / 8つの章で読む
小さな体が集まると、境界が生まれる。
遊びのレスリングから、群れ同士の威嚇、見張り、巣穴の子へ。半乾燥地での協力と対立を追います。
Suricata suricatta
- 暮らす場所
- アフリカ南部の半乾燥地・草原など
- 食べ物
- 昆虫などの無脊椎動物中心。小動物や植物質も利用
- 仲間との関係
- 複数個体が子育てや見張りに関わる群れ
01 / 争い方
遊びの力比べと、群れの境界の争い

子どうしが取っ組み合い、追いかけ、体を寄せる遊びは、成体を含む別群れとの深刻な対立と分けて見ます。掲載する第1動画は、投稿元がplay fightとして紹介する遊びです。相手が入れ替わるか、一度離れてまた近づくかなどの流れに注目してください。体が接触しているという事実だけで、命をかけた争いと意味付ける必要はありません。
一方、別の群れに出会うと、尾を立て、毛を膨らませて進む威嚇が見られます。研究でwar danceと呼ばれる動きです。南アフリカの長期研究では多くの対立が直接の接触前の退避で終わりましたが、死傷を伴う場合もありました。「小さく可愛いから平和」でも「会えば必ず殺し合う」でもありません。見る、接近する、追う、退くという段階を分けます。
参考:Dyble et al.(2019)|Intergroup aggression in meerkats ↗ · UCL(2019)|Meerkat intergroup encounters ↗
02 / 体の仕組み
立ち姿だけでは見えない、掘る体

ミーアキャットはマングース科の食肉類で、ネコ科ではありません。見張りで後脚を使って立つ姿が有名ですが、地上を移動し採食するときは四肢を使います。尾で体を支えたり、高い場所から周囲を見たりする姿勢は、普段の歩き方と役割が違います。直立しているからいつも人のように二足で走ると想像しないようにしましょう。
前肢の爪は土を掘り、地中の餌を探すのに役立ちます。鼻先を地面に向けて探る動きと、顔を上げて周囲を見る動きを切り替えることが必要です。自分が掘っている間は周囲を見にくくなるため、群れの見張りとの関係が分かりやすくなります。大きな目や目の周りの暗い模様も目立ちますが、絵の見た目から視力や観察できる距離を測定したとは扱いません。
参考:Smithsonian National Zoo|Meerkat ↗ · San Diego Zoo|Meerkat ↗
03 / 食べ物
地面を掘って、一口ずつ食べ物を探す

主な食べ物は昆虫やその幼虫などの無脊椎動物です。小さな脊椎動物や卵、植物質も利用します。群れで同じ方向へ移動していても、各個体が地面を探り、自分の餌を得る場面が多くあります。大型肉食獣のように全員で一頭の獲物を倒す行動だけを「協力」と考えると、見張りのもとで採食できる利点を見落とします。
サソリを食べる姿は有名ですが、毒がある相手に絶対に傷つかないという意味ではありません。餌の扱い方や経験も重要です。ヘビとの対峙は、同じミーアキャット同士の群れ間競争とも別の行動です。何を食べ、何を追い払い、誰と距離を取り合っているかを見分けると、同じ爪や口を使っていても意味の異なる場面を理解できます。
参考:Smithsonian National Zoo|Meerkat ↗ · San Diego Zoo|Meerkat ↗
04 / 水と体温
日向と巣穴を使い分ける

半乾燥地では、朝の冷え込みと日中の暑さで条件が大きく変わります。ミーアキャットは日向で体を温め、暑い時間には日陰や巣穴を利用します。腹側の毛の薄い部分と姿勢も体温調節に関わります。立った姿は常に敵を見張っているだけとは限らず、日差しを受けている場面もあるので、その直前と周囲の行動を併せて見てみましょう。
食べ物の水分も利用するため、飲水の場面が映らないからといって水と無関係な体ではありません。乾燥や雨は採食の条件、餌の量、子が育つ条件にもつながります。第2動画の砂嵐は環境が群れの行動を変える例として紹介します。砂に見えにくくなった個体を追うことと、相手との争いを解釈することは別で、悪天候だけで個体の感情を断定しません。
参考:San Diego Zoo|Meerkat ↗ · Smithsonian National Zoo|Meerkat ↗
06 / 子育て
子を育てるのは、母親だけではない

幼い子は巣穴で生まれ、初めは母乳で育ちます。まだ外へ出られない間に見守る個体が残り、成長して外へ出るとほかの群れ個体から餌を受け取る場面も見られます。協同繁殖と呼ばれる生活の具体例です。子の近くにいる成体が必ず父母であるとは限らず、血縁や役割は長期の観察で確かめる必要があります。
子は大人の後を歩き、餌をねだり、地面を探ることを経験します。遊びの取っ組み合いも体を使い、相手と関わる時間です。幼獣が複数集まる様子を、成体の群れ間戦闘と同じ強さで説明しないようにします。周りの大人がどこで見張り、どの個体が餌を渡すかへ視線を広げると、子が一頭だけで成長しているわけではないと分かります。
参考:Smithsonian National Zoo|Meerkat ↗ · San Diego Zoo|Meerkat ↗
07 / 休息
巣穴は、夜だけの寝室ではない

ミーアキャットは日中に活動し、夜には巣穴で過ごします。巣穴には複数の入口や通路があり、暑さや外敵から身を隠す場所にもなります。すべてを自分だけで掘り始めるとは限らず、他の動物が作った穴を利用することもあります。近くに複数の穴があることは、広い地上の採食と安全な退避をつなぐ仕組みとして見られます。
群れが利用する寝場所は一つに固定されるとは限りません。群れ間対立を調べた研究では、対立の結果がその後に使う泊まり場の位置にも関わりました。体が触れなくても、相手が退くことで空間の利用が変わり得ます。けんかの勝敗を負傷の有無だけで測らず、翌日以降にどこで眠り、どこで食べられるかまで見ると、境界を守る意味が具体的になります。
巣穴の深い場所では地上より温度の変化が小さくなります。地面の上の暑さと冷え込みをそのまま受け続けずにすむことも、穴を使う利点です。地上で立つ姿と、見えない地下の空間を一続きの生活として考えてみましょう。
参考:San Diego Zoo|Meerkat ↗ · Dyble et al.(2019)|Intergroup aggression in meerkats ↗
08 / 種と保全
数の多さだけではない、暮らせる土地の質

カラハリの長期研究では、群れの大きさや子の存在が群れ間対立の結果と関わりました。これは調べられた個体群の結果で、世界のどの出会いも頭数だけで勝敗を計算できるという式ではありません。餌が得られる場所、使える巣穴、気候の変化も暮らしの条件です。数分の迫力のある映像の外に、長い一日の採食と子育てがあります。
テレビで人気の動物でも、家庭で人と同じ生活をすればその社会と環境を再現できるわけではありません。観察は野外の自然な距離や適切な動物園の環境で行い、別の群れを近づけて争いを作りません。種全体の評価と地域ごとの条件は分けて考えます。小さな動物の協力を知ることと、争いが起こる土地の制約を知ることを、一緒に楽しめるページを目指しています。
参考:Dyble et al.(2019)|Intergroup aggression in meerkats ↗ · Smithsonian National Zoo|Meerkat ↗ · San Diego Zoo|Meerkat ↗
映像を見返す
ここを見ると、動きがわかる。
- 第1動画の遊びと、群れ間の深刻な対立を区別する。
- 尾を立てる動きと群れ全体の進路を見る。
- 見張り役と地面を掘る個体を見比べる。
生態の解説と、映像に写る個体の事情は分けて紹介しています。短い映像から個体の動機や健康状態を断定することはできません。
よくある疑問
猫の仲間?
名前にキャットとありますがマングース科で、ネコ科ではありません。立つ見張り姿だけでなく、四肢で移動して前肢で掘る動きを見ると暮らしが分かります。猫の飼育や社会をそのまま当てはめず、群れと巣穴を使う動物として理解します。
参考:Smithsonian National Zoo|Meerkat ↗ · San Diego Zoo|Meerkat ↗
最初の動画は本気のけんか?
投稿元がplay fightと紹介する子の遊びです。深刻な群れ間対立とは区別して掲載しています。つかむ、転がる、追う動作が似ていても、相手との関係、役割の交代、中断後に再び近づくかなどの流れを合わせて見る必要があります。
参考:Smithsonian National Zoo|Meerkat ↗ · Dyble et al.(2019)|Intergroup aggression in meerkats ↗
別の群れと会うと必ず殺し合う?
必ずではありません。カラハリでの長期研究では、直接の接触前に一方が退く例が多く記録されています。ただし死傷を伴う対立もあり、穏やかな仲良し集団だけでもありません。威嚇、追跡、退避、接触を分けて考えるのが観察の出発点です。
参考:Dyble et al.(2019)|Intergroup aggression in meerkats ↗ · UCL(2019)|Meerkat intergroup encounters ↗
見張りはいつも同じ個体?
個体が交代して見張る行動が知られています。ほかの個体が地面を向いて採食している間に、高い位置で周囲を見る役割が重要になります。高い場所に立つ一頭を見ただけで、群れの最上位や固定した役職だと決めることはできません。
参考:Smithsonian National Zoo|Meerkat ↗ · San Diego Zoo|Meerkat ↗



05 / 群れと関係
見張りと採食が、同じ場所で進む
群れでは一部の個体が高い位置から周囲を見張り、ほかの個体が採食します。警戒の声を受ければ、採食をやめて巣穴へ逃げることもできます。見張り役を一頭の固定した職業や階級と考えるのではなく、個体が交代して行う仕事として見ます。群れの中にいることは、地面を掘る個体が自分だけで四方を警戒するより有利になる面があります。
同じ群れの協力と、別群れへの対立は共存します。仲間を識別し、匂いの印なども使って行動圏を利用します。繁殖は優位な個体に偏る傾向があり、すべての成体が等しく子を産むわけではありません。メスどうしの競争も研究されています。可愛い家族という印象だけにまとめず、子育ての協力と繁殖をめぐる対立の両方がある社会として見ることが大切です。
参考:Smithsonian National Zoo|Meerkat ↗ · University of Cambridge|Female meerkat competition ↗